甘え下手
「何?」

「あ、えっとですね。たいしたことじゃないですけど……」

「いいよ。言って?」


思いついたと同時に思い出す、秋菜に釘を刺されたあのセリフを。

だけど一旦、顔に出してしまった私を阿比留さんが許してくれるはずもない。


強い瞳でじっと見つめられて、私は口を割るしか選択肢がないことを一瞬で悟った。


「……実家にもう連れて行かないって言ってたのは、どうしてですか……?」


行きたいって言えるような雰囲気のお家じゃないことは重々承知だけれど、もう連れて行かないと言われたときに寂しい思いをしたのは確かで。

何かあるかと言われた時に頭に浮かんだのはこれぐらいだった。


そして秋菜からの忠告はコレ。


――『じゃあ、阿比留さんには結婚を迫るようなことは言わないことね。そういうの嫌がる男の人って多いから。阿比留さんに結婚願望がないなら、追い詰めたら他の女に逃げられちゃうかも』


阿比留さんに結婚を迫るつもりなんて全然なかった私は、秋菜のセリフを軽く受け流していた。

だけど今になってやたらと真実味をまして心にのしかかる。


だから私はこれだけのことを言うのにものすごくドキドキしてしまった。
< 335 / 443 >

この作品をシェア

pagetop