甘え下手
だけど不安そうな瞳をしている気がした。

阿比留さんがこんなセリフを吐くなんて、会社にいる女の子の誰が想像するだろう。


出会った頃の私だって想像もつかなかった。

だけどそんな阿比留さんが、ものすごく愛しくなる。


「阿比留さんはすごく優しいし、私を甘やかしてくれるじゃないですか」

「比奈子はそれで寂しくない? 俺今まで適当にしか付き合ってなかったから、足りてないとこあったら、ちゃんと言って」

「……」

「比奈子そういうの言わないで我慢するタイプだろ」


ふと阿比留さんが顔を上げて、私の両頬をムニっとつまんできた。

言い当てられて私は返す言葉がなかった。


「引っかかってること、今言ってみ?」

「……引っかかってることなんて」


言いながら考えをめぐらす。

言いたいことは特にはなかったのだけれど、阿比留さんがそう言ってくれている以上、何も言わないと我慢していると思われそうで嫌だったから。

何か引っかかったこと……。


「あ」
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