甘え下手
「なんか困ったことがあったら言えよ?」

「……私、櫻井室長の直属の部下じゃない」

「上司としてじゃなくて、兄キのダチとして助けてやるから」


お兄ちゃんの友達として……、か。

本当は一人の女の子として、が理想なんだけど。


嬉しさと少しの切なさが入り混じったまま、私は微笑んでみせた。


「ありがとう……。航太(こうた)さん」

「うん。それじゃ、おやすみ」


片想い相手の職場の上司を。

名前で呼べる権利を私は持ってる。


こんな関係に自己満足して、もう四年。

私達の関係に発展も変化も見られないまま、時だけがゆっくりと過ぎていく。


駅へと向かうスーツの背中を見送って浸っていると、「なんで入らないんだ。さっさと閉めるぞ」と兄のぶっきら棒な声が聞こえた。
< 34 / 443 >

この作品をシェア

pagetop