甘え下手
「急に来ちゃったから翔馬くんと連絡取れなくて。比奈子ちゃんと会えて助かっちゃった」

「いえ……」


主のいないリビングで、私が気になって仕方のない存在である優子さんとコーヒーを飲んでいる。

なんとも不思議な図だ。


「ごめんね、比奈子ちゃん」

「えっ」

「お砂糖、もうひとつもらっていいかな?」

「あ、どうぞどうぞ」


優子さんに「ごめんね」なんて言われると必要以上にビビってしまう。

どんだけ負け犬根性なの、私って。


コーヒーに砂糖を入れる派な私は、雑貨屋さんで買った可愛い角砂糖をここに置かせてもらっている。

それを出したから、優子さんは一目見て私の物だろうと判断したに違いない。


甘党の優子さんのためのお砂糖がこの家になかったことに、私はあらためてホッとしていた。

以前から優子さんがここに出入りしてるわけじゃないと知って。
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