甘え下手
自分のショックな気持ちよりも、阿比留さんの当時の気持ちを思って涙が出た。

だから私が妹に対する引け目を持ってることに敏感で。


意地悪と言ったり、心配したり。

『私の妹だから絶対にない』と断言して不安な気持ちを取り除いてくれたのは……。


阿比留さん本人がその気持ちの経験者だったからだ。


私はこうして阿比留さんに拾われて救われたけれど、あの時の阿比留さんはどうやって辛い気持ちを乗り切ったんだろう。


そして今。

私はどうすれば阿比留さんの気持ちを救ってあげられるんだろう。


涙で滲む視界でぼんやりと無機質なドアを見つめ続けていたけれど、答えなんて簡単に見つかるはずもなかった。


それから夜遅くに阿比留さんは帰ってきたけれど、優子さんが来た痕跡は綺麗に片づけてあったので、彼女がこの部屋へ足を踏み入れたことには阿比留さんは全く気づいていないようだった。

時間があったおかげで私の涙の跡もなくなって、数時間前に起きたことなんて夢だったかのような錯覚に陥りそうだった。
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