甘え下手
純粋に驚いたように聞き返す彼女に後ろめたい様子は見られない。

自分の方が気にしすぎな感じがして気まずく思いながらも、「だって見たから」と事実をそのまま告げた。


「実は櫻井室長の欲しいものを探ってたんです」

「欲しいもの……?」


比奈子はそんな俺の様子に気づくことなく、楽しそうに話し出した。


「披露宴の余興で使うんですって。お兄ちゃんが直接訊いたらバレバレだから私が探ってたんです」


兄貴も酷なことを……と思ったけれど、そういえばあの兄貴は比奈子の長年の片想いに気づいてなかったとか。

それならそんなところまで気が回るわけないか。


にしても。


「断れよ。そんなの」

「えっ?」


まさか関係ない俺に口出しされると思ってなかったらしい比奈子はパチパチと数回瞬きをした。

その表情を見て、俺ってすげー心の狭い男みたいじゃんなんて思ったものの、イラつく気持ちは止められなかった。


「なんでいつもそうやって笑って貧乏くじ引くわけ? 学習しないの?」
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