甘え下手
優子さんから連絡が途絶えたのが『もう大丈夫』だからじゃなかったとしたら……。


「比奈子? 言えって。どこで優子さんと会ったの?」


胸に広がる不安に押されて、口調はどんどん強くなる。

口を割らない比奈子にイライラする。


「阿比留さんのマンションで……」

「は? 何それ。なんで言わないんだよ!」


薄々予感していた通りの答えが返ってきて、強い口調で彼女を責めた。

それは優子さんが出した『助けて』のサインだったに違いない。


ビクッと身をすくめた彼女は小さな声で「ごめんなさい……」と謝った。

だけど彼女の胸中を察してやる余裕もない。


緊迫した空気を切り裂いたのは、俺のスマホが着信を告げる低い振動音だった。

習慣的にポケットから取り出して見ると、着信相手は今まさに話題のど真ん中にいる『阿比留優子』その人だった。


普段だったら比奈子の前で他の女からの電話に出ることなんて絶対にしない。

優子さんからの着信だったとしても、比奈子を優先していたはずだった。


だけど状況が状況だけに、彼女の状態をつかみたくて、俺は反射的に指をスライドさせてスマホを耳に当てていた。
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