甘え下手
「許せないな」

「え?」

「比奈子ちゃんにそんな顔させるとは。第二の兄貴としては許せないな」


「……って俺が言えるセリフじゃないんだけどね」なんて笑った室長に、「そうですよ」とも言えずに私は曖昧に微笑んだ。


「さっきの……聞こえてました?」

「あー……うん。ごめんな。広哉達が気にしちゃって聞き耳立ててたからつい俺も」


櫻井室長は少しバツの悪そうな顔をしたから、私は黙って頭を振った。


「お兄ちゃんは?」

「飛び出て阿比留くんを殴り倒しそうな勢いだったから、俺が止めておいた」

「……ありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして。で、今は興奮冷めやらぬ状態ってヤツだから俺が代わりに出てきた」


自分の恋愛のゴタゴタが家族に知れ渡ってるなんて恥ずかしいけれど、みんな心配してくれてるんだなと思うと、心にポッと明かりが灯ったように温かくなった。


「今頃イライラしてやけ酒飲んでると思う。比奈子ちゃんも下行って一緒に飲む?」

「航太さん……」

「ん? 何?」
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