甘え下手
その日は晩御飯を作る当番だから早々に切り上げて帰った。

それなのにそんな日に限って沙綾もお兄ちゃんも『今日はご飯いらない』とメールしてきたりする。


真っ暗なリビングに電気を点けて「私も食べてきたからいいもーん」と自分で自分を慰める。

冷蔵庫を開けてお茶を取りだそうとして、ふと目についた缶を私は手に取った。


ノンアルコールのカクテル。

酔いたくて酔いたくない時に飲むって言ってたのは阿比留さんだった。


阿比留さんのマンションで飲むようになってから習慣づいて、いつの間にか家の冷蔵庫に常駐するようになった。

こんなところにも阿比留さんは溢れてる。


会わなくても声を聞かなくても私の生活のそこかしこに彼がいることが。

嬉しいような悲しいような複雑な気持ちだ。


詮を開けて中身を勢いよく喉に流し込む。


冷蔵庫の前で立ち飲みをしてると勢いよくスマホが着信音を奏で出した。

指定された着信音にドキッとする。


時計を見ると22時。

ああ、今仕事が終わったのかな。
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