甘え下手
「下見の下見……」


ってなんじゃそりゃ、だ。

だんだん頭が混乱してきて、何が本で、何が末なのか分からなくなる。


「そ、それってお詫びを兼ねたお食事会になるんですかね……?」

「ま、比奈子ちゃんがそうしたいならそれでもいいけど」

「なんか私、いろいろ意味が分からなくなってきました……」

「そうか? 単純だろ? 俺と下見の下見に行きたいと思うか、行きたくないと思うか、だけだ」

「行きたいと思うか……」


阿比留さんと話すのは案外、楽しいんだと私は今日、知った。

だけど私には櫻井室長という想い人がいるから、あくまで友人感覚だ。


「阿比留さんはどうしてそんなに私に協力してくれようとするんですか……?」


私の想いはハッキリしているから、気になるのはどうして阿比留さんが、私にこんなに親切にしてくれるかだ。


「そんな不安そうな顔しなくても、取って食ったりしないよ、比奈子ちゃんのことは」


いつも通りのニヒルな笑いを返す阿比留さんは、私に明確な答えをくれなかった。
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