甘え下手
本物の恋って
野生動物は味にクセがあるってイメージだから、ちょっと身構えてた鴨料理。

高級料亭だからか、上手に調理されているからか、臭みもなく、すごく美味しかった。


小さな鍋にお造りに茶碗蒸し。

どれも上品で繊細な味つけ。


そして何より、出してくれた日本酒によく合う。

通された個室も狭すぎず、広すぎない和室で、窓からはライトアップされた日本庭園が覗け、まさに大人の隠れ家って感じ。


「鴨ってこんなに美味しいんですね~」

「まあ、思ったより美味いな。でも場所が分かりにくすぎ」

「……隠れ家って感じで素敵ですよね」

「そうか?」

「……怒ってます?」


そもそも櫻井室長が連れてきてくれるって言い出したのは、お店が分かりにくい場所にあるからだった。

そんなことすっかり忘れて、下見の下見に乗り出した私達は、まんまと道に迷い、たっぷり30分はさまよって、予約時間に大幅に遅刻してしまった。


料亭の人は快く許してくれて、席も確保できたけれど、それでも恥ずかしくて嫌な思いをしたって怒る男の人だっていると思う。


「べつに」
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