甘え下手
誘惑
「百瀬、遅れてごめんな?」

「いえ、全然! コーヒー飲んでました」


鴨料理を食べに連れて行ってもらう約束の夜、会社から離れたコーヒーショップで、櫻井室長と待ち合わせをした。

櫻井室長の仕事が定時では終わらなかったから。


立ち上がった私のすぐ横に、スーツ姿の櫻井室長が立っている。

オフィスじゃない場所で。


会社の人に見られないように……、なんてイケナイことをしているみたいで、背徳感にドキドキする。

待ち合わせなんて恋人同士みたいで、心臓は高鳴りっぱなし。


ああ、阿比留さん。

これが恋のドキドキですよ。


私の胸を開いて、あの人に見せてあげたい。

こんなにお花がいっぱい咲いてますよーって。


お店に入ってきたばかりの櫻井室長は、店内をキョロキョロ見回して、誰も顔見知りがいないことを確認すると、「じゃ、行こうか。比奈子ちゃん」と呼び方を会社モードからプライベートに替えた。

それだけでジタバタ悶えたい衝動に駆られる。
< 74 / 443 >

この作品をシェア

pagetop