甘え下手
「いやいや、比奈子ちゃん。出会いの場は大切にしなよ。無理めな片想いばっか追いかけてたって、楽しくないでしょー」


グサッ。

サクっと刺したよ、この人。


無理めな片想いって決めつけんなよ!


「じゃあ、行かない。私、行かない!」


「何、比奈子ちゃん。仕事ではしっかり者だけど、案外子どもっぽいところもあるんだね。可愛い、可愛い」


頭を撫でられそうになったので、バッと手で払う。


「俺、裏通りのそば屋で昼食うのが、結構好きでさー」

「何ですか、急に」

「櫻井課長もよく来てるんだよね、知ってた?」

「……卑怯者」


上目使いで恨めし気ににらんでうめくようにつぶやくと、「女の子の上目使いはそんなことのためにあるんじゃないよ」とたしなめられる。


サタンの思惑から逃れるのは、私では無理があるらしい。

別に男嫌いってわけでも、人見知りだから合コンなんて苦手とも思ってないけど、サタン主催ってところがなんとも嫌すぎる。


「ホラ、もう友達呼んじゃったんでしょー。さっさと片づけて行こう、行こう」


女の子とご飯に行けるということで、サタンはご機嫌で鼻歌まじりで機材を片づけている。

帰りまで、煙草休憩に消えられないだけマシか。


私はあきらめのため息を吐いて、さっさとブースを片づけることにした。
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