甘え下手
「外にツレ待たせてるんだ。もう行くわ」


スッと優子さんの横を通りぬけて玄関へと向かう俺の背中に、遠慮がちに優子さんが声をかける。


「たまにはご飯食べに来て。お義父さん達も喜ぶと思うし。もっと家族に甘えていいんだからね」

「……」


そういうのが俺のカンに障って意地悪されてるって、気づかねーのか、あるいは気づいてても言いたい相当図太い女なのか。

俺はひと息ついて振り返らずに手を軽く上げてそれに応えた。





「相変わらずのでっかい家だねー。実家、医者だっけ?」

「歯医者」


仁が運転する黒いハイブリッドの助手席に乗り込むと、どっかりとシートに身体を預けた。

コイツとは会社入ってからの浅い付き合いだけれど、実家に送ってもらったことが前にもある。


その時も「実はおぼっちゃんだったのか!」とか「イケメンで金持ちってズルくねえ? 女の子の前で金持ちカード使うの禁止な!」だとか散々騒いでいた気がする。
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