甘え下手
比奈子ちゃん
「翔馬くん。来てたの?」

「……ああ、ごめん。勝手に入って」


金曜日の夕方、実家に置いてるPCに入ってたデータが欲しくて、久々に自分の生まれた家へと足を踏み入れた。

そのまま目的のものだけ取って、さっさと出て行くつもりだったのに、階段を下りたところで、買い物から帰ってきた優子さんに見つかってしまった。


俺のぶっきらぼうな物言いに、困ったように眉を下げて微笑む。


「そんな……。ここはあなたの家なんだから。遠慮しないで、もっと帰ってきていいのよ」

「……考えとく」

「ねえ、ご飯、食べて行かない? すぐ用意するから」

「兄貴は? 遅いの?」

「今日は学会に行ってるから」

「ふぅん。兄貴のいない間に男連れ込んでちゃ、マズいんじゃないの?」


わざと至近距離で息を吹きかけるようにささやくと、優子さんは心底困ったような表情になった。


「男って……、翔馬くんは家族じゃない」

「冗談だよ」


家族、ね。

俺はそんなこと思ったことないけど。
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