甘え下手
俺らがいる地点を通り越して歩いて行く彼女の後ろ姿を眺めながら、仁がしみじみとそんなことを言うもんだから、ハッと我に返った。

先に言ってくれたから、「何言ってんだよ」と呆れる側に回ることができた。


仁がいなかったから、同じことを思っていたかもしれない。


「確かに声かける雰囲気じゃなかったなー。室長にフラれたのかな」

「……さあな」


フラれ……たんだろうか、あれは。

俺がけしかけたせいで?


そうなればいいって思いはあったはずだった。

不毛な片想いごっこに興じてないで、現実見た方が幸せになれるって。


似た境遇にいる自分だからこそ、分かるんだって勝手にそう思ってた。

だから百瀬比奈子がフラれたんだとしたら、それは俺の思い通りの結末になったことになる。


なのにあの彼女の横顔が脳裏に焼きついて離れない。

この苦い思いはなんだ?


後悔してんのか?


バカバカしい。

部外者なのに、何を勝手に肩入れしてんだか、俺は。
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