撮りとめた愛の色
ふと思い出したように私が呟けば、彼は「嗚呼、それなら」と部屋を振り返りながら答える。
「出来てるよ、見るかい?」
「本当?勿論見ます」
「だと思った。なら後で見せてあげるから少し待つといい」
彼は楊枝《ようじ》で小さく崩した羊羹を口の中へと運び、味がお気に召したのか目を細めて嬉しそうな表情を覗かせる。
それを見て彼の動きに倣うように私も羊羹を口へと運んだ。
「あ、おいしい」
舌の上で広がる濃厚でいてしつこくない上品な甘さを感じながら、これは高い羊羹だろうと予想をつける。うん、なかなかいいものを貰った。
「…それにしても。出展まではまだ日があるのに、ずいぶん今回は早いみたいだけど」
「まぁ、今回は課題の相性が良くてね。私としては行書の方が書きやすいから」
「…私には良く分からないわ、それ」
もう一口、羊羹を口にしながら呆れたように呟けば彼は薄く微笑んで首を傾げてみせた。着物から覗いた鎖骨に毛先が掠める。
「じゃあ折角だ、そのうちにでも行書を書いてみるかい?」