嘘つきなキミ


『会いに行く。お前といて、そう決めた』


堂本と別れてから、楓はさっきの言葉をリフレインする。

鬱陶しいかもしれないけど、堂本のこの決断を最後まで見届けたい。
そうしたら、この恋に終止符が打てると楓は思うから。

アパート前で足を揃えると、空を仰ぐように建物を改めて見た。

あの日拾われて、介抱された堂本のアパート。
この部屋に帰ることが出来るのは、あと何回だろう。

そんなことを考えて、楓はしばらくそのままアパートに入ることをしないでいた。

静寂の中、バイブ音が小さく響いた。

楓はその振動で我に返ると、ポケットから携帯を取り出す。

暗闇で光るディスプレイがやけに眩しい。
目を細めて確認すると、それは今日帰って行った圭輔の名だった。


『もしもし。姉ちゃん?』
「うん。圭輔、起きてたの?」
『……なんか、まだ興奮状態なのか、眠くないんだ』


楓はアパートに背を向け、ぽつんとついている街灯を見上げて圭輔の声を聞いていた。


『あの人……堂本さん。なんか言ってた?』
「え……? 特に……あ、このアパート、しばらく使っていいとは言ってくれてたかな」
『そう……』
「なんか色々と……ごめんね」


静かなのは、住宅街だけじゃなく、楓の心の中も同じ。

改めて楓は圭輔に謝ると、圭輔もまた、静かに答えた。


『オレは結局なんにもしてないから。お礼ならあの人たちに言えばいい』
「――うん。でも、圭輔もずっと支えてくれたから」
『そうだね。ずっと……ずっと、“オレだけが姉ちゃんを守れるんだ”って思ってた』


街灯の明かりから月明かりへと視線を映す。
ぼんやりとした月から出ている光が、なぜだか温かく感じる。

こんなふうに、いつも穏やかに、温かく支えてくれていた。

そう、楓は思う。


『でも、もう違うみたいだね』
「え……?」
『オレはいつまででもそうしたかったけど、姉ちゃんは一人でちゃんと歩き出したから。だから、オレも自分のこと、考えるよ』


姉離れを決断した圭輔の宣言を聞くと、弟離れ出来てなかったのは自分の方なのだな、と改めて実感する。

明らかに寂しい思いになった楓は、何も答えることが出来なかった。

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