白狐のアリア
「簡単なこと。
この世にお主に並ぶ者がいないのなら、こことは違う世にゆけばよい。
異なる世にはうようよおるぞ。例えお主より弱くとも、向かってくる者共が。
異界には、妾が責任をもって送ってやろう」
「お前には何の利がある?」
「ある娘を守ってもらいたい」
「娘?」
「どうじゃ? 受けるか、受けないか。
その娘の命さえ守ってもらえれば、あとはお主の好きなように生きるが良い。
お主にとってもこちらにとっても良い条件じゃろう?」
白火は腕を組んで暫く黙っていたが、やがてニヤリと笑った。
「……面白い。行ってやろう」
「主!?」
「牛鬼、俺の百鬼はお前に預ける。お前ならしっかり纏めてくれるだろう」
「何を!?」
「おい天香久山神。一刻待てるか」
「こちらは良いが……そちはよいのか? 随分早い決断じゃが」
「いい。おい牛鬼、紙と筆をもて」
ついつい命令されて白紙の巻物と携帯用の筆と墨を出してしまう牛鬼。
苦虫を噛み潰したような顔をしても、白火は知らんぷりである。