白狐のアリア
「最後に会ったのは、年明けの会合だから、参月(みつき)ぶりだ。嫁は見つかったか、桐生(きりゅう)。うちの玉響(たまゆら)の発情期が終わるぞ」


 桐生と呼ばれた犬神は、頭を抱えた。

 彼もそろそろ適齢期だと、この頃毎日毎日雌の妖(あやかし)が詰めかけてくるのだ。最も、彼が既に思いを寄せる雌(ひと)はおり、それが青年――白火のところの百鬼に入っている玉響という者なのだが、桐生はなかなか玉響に会いにいくのを渋っていた。というのも、


「うるさい黙れ。俺はお前にだけは借りを作りたくないんだ」

「あいつの遠吠えがうるさくて叶わんから、正直早く貰ってほしいんだが……いっそ、百鬼から追い出してやろうか」

「それは駄目だ。あいつはお前を心の底から尊敬してるんだから」

「なんだ、嫉妬か? 見苦しいぞ、桐生」


 ニヤニヤと意地悪く言う白火という青年が藻女の兄であり、名実ともに保護者たる存在だった。

 彼がいるから藻女に手が出せない。どうしても藻女の存在に矜持が許せなかった過去数名の大妖怪は、彼女を喰らおうと襲いかかり、そして尽く、白火に殺された。

 白火と藻女は、妖怪にしては稀に見る、仲の良い兄妹だった。
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