白狐のアリア
 白火もまた妹と同じく、ひどく目を引く美しさを持つ青年だった。

 だが、その種類は、まるで手で振れると斬られるような、危ういものである。

 美しいながらも、赤い火よりも危険と言われる、青白い炎。それから彼の名はつけられた。
 触れることのできない孤高の存在。


「……もういい」

「おや? もう終わりか。つまらんな。…最近、俺に喧嘩を売ってくる奴がいなくて、余計つまらん」

「この國(くに)にお前よりも強い妖など、もう居らんだろう」

「本当に、つまらないものだ…」


 ふっと微笑し、開け放たれた障子の外を見やる。そこには、夜空に浮かんでいるはずの月が、なかった。


「今夜は、朔か……」


 蝋燭に照らされるその青い瞳は、つまらなそうに空を見ていた。
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