初恋の宝箱
口の周りについているのは間違いなくヨダレだ
街中だけならまだしも、こんな顔で学校の中を駆け回り、おまけに1年生の教室に間違えて入ってしまったことにさらに自己嫌悪になった
「おい」
女子トイレの扉の外から柳瀬の声が聞こえた
声だけはかっこいいのに、と思いながら桃子は急いで顔を洗う
早くしろ、というイライラ気味の柳瀬の声に対して今行きます、なんて威勢よく返事をしたのはいいものの
蛇口を絞ってブレザーのポケットにハンカチを出そうと思って手を突っ込むが、
ハンカチらしき感触がない
出てきたのは飴玉
『こんな時にハンカチ忘れるなんて!』
再び自己嫌悪
仕方がないので、顔がべとべとのまま女子トイレの扉を開ける
桃子の姿に一瞬、ギョっとする柳瀬
しかし、自分のスーツのポケットからハンカチを桃子に無言で差し出した
『本当に手のやける奴』