彼と彼女の場合
「そんなこと気にしなくていい」

「ごめんなさい…」

何度目かのごめんなさいの言葉が僅かに震えていたような気がして路肩に止めて彼女を見ると、

「あ、すみません!大丈夫ですから!」

そう言って無理やり笑顔を向けていた。

「そんな顔しないで…」

たまらなくなって彼女を抱き締める。

「私、大丈夫ですよ。浩汰さんも気にしなくていいって言ってくれたし」

「うん…。ほんとに気にしなくていい。俺はそのままの愛果を好きになったんだ」

「…ありがとう」

一瞬、泣いているのかと思ったが覗き込んで見た顔は笑顔で、でもあの無理やりなものとは違っていた。


……彼女の大丈夫はあまり信用ならないような気がする。

いつもこうやって抱え込んでやり過ごしてきたんじゃないか?

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