海の城 空の扉
「ローレン王子は戦火の中で行方知れずになっています。果たしてご存命かどうか……」


『ローレン』それが兄の名前らしい。


「兄の名前さえ覚えていないわ」

ラドリーンは小さく首を振って、こめかみを押さえた。


テオドロスは立ち上がると、ラドリーンの隣に座った。

「無理もありません。貴女はまだ7歳になったばかりで、恐ろしい光景を沢山目にしたのですから」

そう言って、励ますようにラドリーンの手を包み込む。


父の名はゲラン。母はヨランナ。

――やはり覚えていない。


ラドリーンは喪失感に唇を噛み締めた。

『真実』はラドリーンの空白を満たしてはくれなかった。


「では、わたしの国はもうないのですね?」

ラドリーンはつぶやくように尋ねた。


「いいえ。お国は間もなく宰相の手で取り戻されました。タレス公エイローン。隣国の王家の血を引き、我が国の王族を妻に持つ男です。奴は図々しくも王城に住み、王のように振る舞ってきました」

テオドロスの手に力がこもった。

「エイローンは数ヶ月前に体を壊して、伏せっているらしい。兵を挙げましょう、ラドリーン姫。わたしはそのために貴女を迎えに来たのです」

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