西澤さんと文子さん

たくさんの人でごったがえす駅前を歩く2人。
人ごみを避けるように、二人は順調に進んでいるかに見えた・・・。


バンっ!


「ご、ごめんなさい。」


文子は向かいから来たカップルにぶつかった。その瞬間、西澤の姿を見失ってしまった。



「どうしよう・・・。」



文子は、とっさにバックの中の携帯電話を取り出して西澤にかけるが・・・



“おかけになった電話は、電波の届かないところにあるか電源が入っていない為、かかりません。後ほどおかけ直しください。”



つながらなかった。



文子は、繁華街の中、一人取り残されてしまった。迷子の子供のように、泣きそうになるのを我慢して、近くの店の壁にもたれかかる。通過する人の波の先、道路を挟んで向かいのショーウィンドウに純白のウエディングドレスが展示されていた。微かに見えたそのドレスに文子は少し見とれてしまう。


「結婚か・・・」


今まで考えもしなかった結婚。
文子の中で少しの期待と少しの幸せ、そして少しの不安が浮かぶ。
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