Over Line~君と出会うために
 それでも、知らない人は知らないでいられるのだということを、貴樹は彩と会って初めて実感した。きっと、興味がないから、見ていたとしても記憶には残っていないのだろう。そういうこともあるのだと、言われてみればわからなくもなかった。
 自分だって、好きなアニメの声優が誰なのかは把握していても、CMに出ているタレントが誰だということまではきちんと把握していないのだから。
「んー、でも、俺、自分がそうだからわかるけど、興味がないってことは記憶に残らないってことなんだと思う。あの人は、テレビとか全然見ないみたいだし、すごくまじめな人みたいだから、俺みたいなちゃらちゃらした外見のオトコなんか、テレビで見たとしても記憶からデリートされてるんじゃないかなぁ」
「……で?」
「で、って何?」
「どうして、そういう相手と知り合うようなことがあったわけ?」
「えーと、そのぅ……」
 そもそも、最初から相談をもちかける相手が間違っている。
 しかし、誰に相談することもできず、考えすぎてもはや思考回路が纏まっていない貴樹は、最も警戒するべき人物の一人に話をしていることに気づいていない。天宮に話せば最後、メンバー内に全てをばらされて吊るし上げの対象にされかねないことくらい、経験でわかりそうなものなのに。
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