Over Line~君と出会うために
 ひとしきり咳き込んだ貴樹を心配するように、彩の声音が変わる。そうして心配してくれる存在を、失いたくない。そう、痛烈に願った。
 なのに、勇気がない。
 真実を告げて、彩がいなくなってしまったら、生きていけない。以前に付き合っていた彼女のように、REAL MODEの貴樹なんて要らないと言われたら、今度こそ立ち直れない。もう一度追いかけられるほど、度胸はなかった。
「俺、だから……その」
「わかった。もういい」
 彩は低い声でそう言って、電話を切った。
 慌てて電話をかけ直したけれど、電源を切られてしまったらしく、つながらなかった。何度リダイヤルをしても、虚しい音声ガイドが流れるだけだ。
 辛いのも、苦しいのも、自分だけじゃない。それはわかっている。だけど、どうしたらいいのかわからない。この疲労も、何もかも、どうにもならない。
 投げ出すように携帯をベッドの上に放り出して、枕を殴りつけた。
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