Over Line~君と出会うために
 案の定、彩は留守だった。
 もらっていた合鍵で部屋に入ると、几帳面な彩らしくきちんと整理整頓された空間がそこにある。大量にものの溢れた自分の部屋とは大違いだ。その中に貴樹という異分子が入り込んでいる証がそこかしこにあって、その事実に嬉しくなった。
 貴樹は持っていた荷物を置いて、部屋を見回す。
 ふと見れば、部屋に置かれた小さなテーブルには、数枚の便箋が置かれていた。それは、書きかけの手紙のように見える。
 悪いと思いながらも覗き込むと、書き出しは『貴樹へ』となっていて、その後は真っ白だった。
 何を書こうとしていたのだろう。もしかして、別れ話だろうか。
 自分でした想像に暗い気持ちになりながら、フローリングの床に腰を下ろす。彩が帰って来るまでに時間はありそうだし、その間の空白を埋めようと何気なくテレビをつける。考えるためには雑音かもしれないが、無音の空間も耐えられそうもなかったからだった。
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