丹後の国の天の川。
星の降る村
 あずみ(安純)は学校帰り、川沿いに腰掛け、空想にふけることが日課だった。
 その日はいつの間にか居眠りを始め、気がついた頃、夕日が傾いていた。
 帰らないとテレビがはじまる、あずみは急いで立ち上がり、かばんを手にかけた。
「おまちください」
 足元を見ると大きな亀があずみのスカートをくわえていた。
「か、亀…」
「はい、おっしゃるとおり亀です。じつはあなたにお願いがあるのです」
「夢じゃなさそうね…お願いって、なにかしら」
「わたしの国にいらっしゃれば、くわしいことをお話できるんですがねぇ。いかがでしょう、わたしと一緒にいらっしゃいませんか」
 いやみを言いたくなるほど、営業トークのうまい亀である。
 あずみは先述のとおり好奇心だけは強かったので、亀についていってみることにした。
「それでは、目を閉じていてくださいよ」
 言うが早いか亀は光の速さも飛び越えて、川くだりを始めた。 
 海が近づくと海底にもぐり、大きな神殿へ連れてこられた。
「それで亀さん。お願いってなに」
「ここの城主は亀比売さまといって、月読命さまのご子孫です。たいそう美しいお姫様だったのですが、今はもう亡くなってしまい、主人はありません。そのご子息が筒川村にいらっしゃいますが…」
「筒川村? どこ」
「この近所です。会ってみればわかります」
「ふうん、わかった。その島子って人に会えばいいのね。会ってどうすればいいの」
「お母上が生前残したかったというこの玉手箱をわたしてください」 
「おっけ。かんたんじゃん、期待して良いわよ」
 あずみは亀にウィンクを送る。
「それでは、今夜はここへお泊りいただいて、筒川村まで参りましょう」
「その筒川村まで今すぐ行ってみたい。ねえ、いいでしょ、亀さん」
「いっ、いまからですか」
「そ。いまから。いきましょうよ」
 亀はため息をつきつつも、あずみの頼みを引き受け、筒川村まで連れて行ってくれた。


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