丹後の国の天の川。
 処刑され、吉備津彦の腕と剣の柄から滴る鮮血は、あずみの愛した男の流している。
 あずみは世界史の授業で教わったプロイセンの王、フリードリヒ大王の若い頃のことを思い出した。
 わがままで自分勝手な振る舞いをしていた父親の横暴のせいで斬首されてしまった、若き大王の理解者、カッテ少尉。
 首を切り離され、2階から処刑現場を見ていろと命じられ、自分を愛するものを殺すサマを見せつけられた大王は苦しんだという。
「ゆるしてくれ、余をゆるせ、カッテ…」
 あずみは頬を伝う涙を拭うこともせず、大王と吉備津彦の姿を重ねていたのだろうか。
「ゆるせ。俺をゆるせ、島子…」     
 くずおれ、地面につっぷす吉備津彦を、あずみは嗚咽をこらえながら見つめていた。 
    
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