Secret Lover's Night 【完全版】

羽の生えた少女

小さな手を引いてスタジオから連れ出すと、案の定心配げに表情を曇らせる恵介が扉の前でうろうろとしていて。
それを素通りしそのまま上司のデスクの前へと足を進め、わざと真剣な表情を作って口を開いた。

「所長。あの写真、香水か何かの広告に使うんでしたよね?」
「は?あ、あぁ」
「事務所との契約やないですよね?」
「あぁ。そう!代わりのモデルを…」
「モデル、この子でいきます」

上司の言葉を遮る形で用件を告げ、そのまま踵を返す。戸惑う千彩が、引かれた手だけを頼りにフラフラと揺れていた。

「はるっ…はるっ」
「んー?」
「何するん?」
「写真撮るんやで」
「誰の?」
「ちぃの」

振り返らずに千彩の問いかけに答える晴人の前に立ち塞がったのは、言わずもがな沙織で。不満の色を隠すことなく、千彩を指差して文句を言い始めた。

「HALさん!このガキをモデルにするわけ?出来るわけないじゃん!」
「出来るよ。そっちの事務所との契約やないんやから」
「そんなガキ脱がせたっていい写真なんか撮れないわよ!」

晴人の撮影スタイルを知っているモデルからすれば、それは尤もな主張で。自分でも好んでその姿を撮るだけに、そう言われることに関して否定はしない。

けれど…

千彩を睨みつける沙織を押し退け、晴人は言った。


「俺は女を脱がせるために写真を撮ってるわけやない。邪魔するんやったら帰って」


これは、フォトアーティストとしての晴人の主張。10年近くこの仕事をしているのだから、何も脱がせるばかりが晴人の腕ではない。

「KEI、こいつ撮るから。いつも通りよろしく」
「はいよー」
「僕らも手伝います!」

晴人の清々しい主張に、恵介を始めとしたサポートスタッフが、「待ってました!」と言わんばかりに動き始めた。
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