Secret Lover's Night 【完全版】
つい数分前まで聞こえていた嫌がる声が、既に楽しそうにはしゃぐ声へと変わっている。

「おっ。カメラマンの登場やで」
「はるー!」

楽しそうに恵介とじゃれ合っていた千彩が、その姿に気付いて駆け寄って来る。それを抱き止め、サラリと靡く髪を撫でた。

「綺麗にしてもろて」
「あのオニーサン?がね、これ切ってくれた」
「おぉ。鬱陶しかったからな。良かったな?」
「うん!」

ちょいっと前髪を摘みながら嬉しそうに笑う千彩に、自然と晴人の頬が緩む。

「イメージ通り。さすがやな、メーシー。サンキュ」
「そりゃ、俺と王子との仲だからね」

恵介までとはいかないけれど、「メーシー」と呼ばれた「佐野明治(さのあきはる)」ともかなり密度の濃い付き合いをしている。
大人の曖昧な境界線はあるけれど、互いを「メーシー」「王子」と呼び合い、プライベートで酒を酌み交わすほどには付き合いがある。

「突然連れて来るから何かと思えば…やりごたえのある仕事をさせていただいてどうも」
「いえいえ。とんでもない」
「髪、伸ばしっぱなしーって感じだったから、前だけじゃなくて後ろも少し切ったよ?嫌がって大変だった」
「嫌がった?あいつが?」
「ハルが好きなんだから切っちゃダメー!って」
「あぁ、ははは」

そういえば、そんなことを言ったかもしれない。晴人からしてみれば特に深い意味はなかったのだけれど、大切にする!と笑っていた千彩からすれば一大事だったことだろう。それにまた頬が緩む。

「で、どれくらい?付き合いは」
「二晩と…ちょっと?」
「へぇー。それで王子を射止めるとは、あの子なかなかやるね」

ニヤリと笑うメーシーに小さく首を傾げ改めてお礼を言うと、白いワンピースの裾をちょんと摘んだ千彩が、晴人ににっこりと微笑みかけた。

「お?」
「おや?」
「何やちぃ、急に澄まして」

それに気付いたのは、何も微笑みかけられた晴人だけではない。一緒になってはしゃいでいた恵介も、晴人を茶化そうとしていたメーシーも、初めて見るその表情に驚きを隠せない。

「ちさ、モデルさんやから」

その言葉に、あぁ…と軽く納得した素振りを見せるものの、晴人はそれに頷きはしない。言葉を掛ける代わりに手を引き、そのまま撮影用に準備されていたベッドへと放り投げた。

「わー!」
「KEI、行け!」
「よっしゃー!」

勢い良く倒れ込む千彩と、晴人の言葉でそこへ駆け寄って千彩に白い羽根を浴びせる恵介。そして、つい数秒前の言葉を忘れて楽しそうにじゃれ合う千彩の表情を、一瞬たりとも逃がさぬようにカメラに収める晴人。
今までの晴人からは到底考えもつかないような撮影スタイルに、その場に居た全ての人が目を瞠る。

「ありゃー。あれは完全に王子が惚れ込んでるね。ね?所長」
「そう…みたいだな」
「意外だな。ああゆうのが好きだったんだ」
「まぁ…いいんじゃないか?俺にはよくわからない」

はしゃぐ三人を眺めながら、メーシーも気分を和ませた。


「けーちゃん大好きー!」


パシャリと切られるシャッターの音に、今度はそのまま晴人へと両手を伸ばした。


「はる大好きー!」


カメラを構えていても、晴人が笑ってくれているのがわかる。千彩にはそれがとても嬉しくて。散らばった羽根を寄せ集めて、反撃だ!と言わんばかりに恵介の上へとそれを舞わせた。

「やったなー!」
「きゃー!」

ふわりと舞う羽根の中で、きゃーきゃーとはしゃぎながらじゃれ合う二人。

それ自体も千彩にとっては楽しいのだけれど、何より、晴人が楽しそうに何度もシャッターを切ってくれることが嬉しかった。
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