黒猫のアリア
正しいとは言えないこの仕事が。
自分だけの正義のために周りを巻き込むこの方法が。
もしも、誰かの笑顔に繋がるならば。
子供染みた願いと共に、ロンドンの夜へ溶かしてみせよう。
「ねー、モル」
「ん?」
どうしようもなく苦しいことも、理不尽なことも、すべてを包む闇。星が瞬く静かな街で。
「この歌、なんて名前だっけ」
どこからか子守唄が聞こえる。穏やかで、安らかで、とても叙情的な愛の旋律。
そうだ、私もいつか遠い昔、父に唄ってもらったことがあったっけ。
「"黒猫のアリア"だよ」
静かな声でモルペウスが答える。青い瞳が、歌に聴き入るように閉じられていた。
聴こえてくる歌に重ねるように、私もその旋律を口ずさんだ。
すべてを包むロンドンの夜が静かに更けていく。
少し幼稚なメロディーが、闇の中に溶けて流れていた。
――黒猫が唄うは、稚拙なアリア。
黒猫のアリア
end