魅せられて


別れを惜しむように
引地の座る椅子に手を掛け
存在しない引地の姿を浮かべ


キスを交わした唇を
指先で触れた


会計を済まし
いつものように
見送ってくれる
チーフ達へ軽く頭を下げ


BARの扉を開ける


夜風が暖かく
私の体を包み
外灯の灯りが煌く


車道を走る車のタイヤ音が
小波のように響き
赤いテールランプが
一直線のラインを残して
通り過ぎてゆく


BARを出た路地を曲がると
ビルの壁に寄り掛かり
煙草の火を燈す男性の姿が
目に映り込んだ


帰ったはずの
高梨がいる


立ち竦む私に気付き
煙草を投げ捨てた高梨が
ビルの壁から背を離し


私を抱き寄せた


路上で唇を重ね
私の髪を押さえ込む高梨の腰に
私は腕を回していたわ


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