魅せられて


桜並木に備え付けた
石作りのベンチに
うな垂れて座る
高梨の姿がある


携帯電話で
誰かと
話をしているらしい


私に耳を刺した声は
露骨な感情を剥き出しにした
重い言葉だった


『いい加減にしろ』


あの無表情な男が
感情を露わに
醜態を見せる


電話先の相手は
奥様である事を
汲み取れてしまう


言葉とは裏腹に
うな垂れる背中


溜息混じりの
掠れた返事が
何度か続き


切断した回線の
携帯電話を
力なく下ろした高梨が
深い溜息を吐き捨てた


私は身動きが出来ず
存在を消し続ける
早く高梨が立ち去る事を
願いながら


息を止める事しか
出来なかった


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