魅せられて


高梨が立ち去った
桜並木


振り返らず
消えていく高梨に
ホッと肩を撫で下ろす


薄暗く陰りだすと
夜が訪れるのは
意外と早く


店内の明かりを
煌々と照らし出す
コンビニが目に映り
硬直した頬を軽く叩きながら
歩きだした


購入した商品は
掌の熱を奪う
缶ビール一本


レジ袋を断り
コンビニを後にし


高梨が座っていた
石作りのベンチへ
腰を下ろした


高梨の温もりも
すでに消え去った
冷たいベンチ


行きかう人並みも
気にせず
缶ビールを飲む私は


人目も構わず
醜態を曝け出せる程
高梨を突き動かせる
奥様の偉大さに


打ちのめされた
気がしていた


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