その指に触れて
「万梨ちゃんの指が、荒れてるから……」

「なんで? こんなの汚いじゃん。皿洗いで荒れてる指にキスする意味、なくない?」


あたしの指は荒れている。誰かに頼まれたわけでもなく家の食器類を毎日洗うようになったのは、親の仕事が忙しくなって帰るのが遅くなった小学校の高学年。洗剤に負けたんだか水に晒されているのが悪いのか、あたしの指は常に赤切れと発疹ができている。


親には止められているけど、皿洗いは好きだし、止める気はない。ただ、見られたくはなかった代物ではある。


「そんなこと言わないでよ」


震える指であたしの指の先をぎゅっと握り締める。


なんでこいつが震えてるわけ?


「そんなに嫌なら……」

「違うから」


遥斗は再び指に唇を落とす。


「違うよ……万梨ちゃん」

「何が? こんな気持ち悪い指、誰が見ても」

「万梨ちゃん」


遥斗の舌が指を這う。やばい……体の奥の熱が爆発しそう。


「やめて……」


泣きそう。


何してんの、こいつ。趣味悪すぎ。晃彦ですら、この指を見て顔をしかめていた。


こんな指、必要なければ切り落としたいのに。


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