その指に触れて
「……泣いてるの?」


晃彦は体を起こしてあたしの顔を覗き込んだ。その体は裸だ。


「泣いてないし」


勘違いしないでとあたしは晃彦を睨みつけた。


「体は頼ってくれてんのに」


後ろからあたしの肩に頭を乗せた晃彦はため息をつく。あたしは既に服を身に纏っていた。


「頼ってんのはあんたでしょ」

「ツンデレ」

「違うでしょ」

「違くない。口はツンで体はデレてる」

「……気持ち悪い」


あたしの周りの男は趣味の悪い奴しかいないのか。


あたしの荒れた指に唇を落とした遥斗もわけがわからない。


唇どころか舌を這わせてきたのに耐えられず、あたしが力づくで指を離してその唇に自分の唇を重ねたらすぐに離された。


「俺は、万梨ちゃんとやる気はないから」と言って、遥斗はさっさと美術室を出ていってしまった。


わけがわからない。


じゃあ、誰とならやる気あるっての?


まさかあたしの指なんて言わないよね。随分と悪趣味だな、おい。


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