その指に触れて
「ん? 万梨ちゃん?」


山田くんはキャンバスから目を逸らし、こちらに振り向いた。


「もうあたしの名前覚えたんだ」


一週間前に初めて会ったばかりなのに。


女子みたいで逆に引くよ。


「人の顔と名前を覚えるのは得意だから、俺」


顔のサイズに合わないメガネをかけてにっこり笑うこの男は、優男にしか見えない。


元カノがいたとか、もはや気持ち悪いの域だ。


こいつの元カノの顔を一回拝見してみたいものだ。


「絵の仕上げ? 邪魔した?」

「ううん。もうすぐ終わるから平気」


顔に反さず優しいこの男。


「見ていい?」

「いいよ。てか、その角度からだと丸見えでしょ」


ええ、丸見えですよ。でも一応プライバシーのために許可を取ったんですよ。


17でこんなことを考えるあたしは、ひねくれているのだろうか。


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