この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

一枚板で作られたツルツルのカウンターに座り、おっちゃんが「いつものね」と言うと白衣を着た料理人が深々と頭を下げる。


「おっちゃんって、凄いね」

「そんなことないよ」


おっちゃんがサングラスとマスクを外し、ニッコリ微笑む。


「それで、私に話しって何?」

「うん、君の下の名前って、もしかして美衣芽ちゃんじゃないな?」

「えっ! どうして私の名前知ってるの?」

「やっぱりそうか……」

「やっぱりって……」


一瞬、寒気がした。私は、この人のこと知らないのに、この人は私のこと知ってる。


「おっちゃん、誰なの?」


探る様に低い声で訊ねるとおっちゃんは揚げたての天ぷらをほおばりながら話し出した。


「私の知り合いでね、神埼美衣芽って子を探してる人がいるんだ。もう随分会ってない様で、とても心配してる」

「それ、誰?」

「事情があって今は言えないが、君を大切に思ってる人だよ」


私を大切に思ってる人?


「そんな答えじゃ納得出来ない。教えて? 誰なの?」


するとおっちゃんは目を細め、箸を持つ私の右手を握ったんだ。


驚いて手を引っ込めようとしたけど、強く握られた手は私のいうことを利かない。


その力強さに、上手く言えないけど、何か感じるものがあって自然に力が抜けていく。


「今は勘弁してくれないか……」

「でも……」

「私ひとりで決められることじゃないんだよ。その内、きっと話すから。それまで……頼むよ」


必死に懇願するおっちゃんの顔を見てると何も言えなくなった。


「ホントに教えてくれる? 絶対?」

「約束する。本当にすまない」

「う……ん」


そう言ったものの、その人が誰なのか気になってしょうがない。


私を探している人……長い間、会ってない人……


考えて考えて、考えぬいて、ふと頭に浮かんだ人。それは――


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