この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

顔を引きつらせながら振り向くとそこには、ハンチング帽を目深に被って黒いサングラスをかけ、マスクをしたいかにも怪しい風貌の男が居た。


「だだだ、誰?」

「……神埼さんだよね?」

「そ、そうだけど……」

「私だよ。ほら、階段でぶつかった……」


何気なく彼のネクタイに目をやるとペンギンのネクタイピンが光ってる。


「えぇっ! 階段のおっちゃん?」

「そうそう」

「そんな格好して、何してんの?」

「君を待ってたんだよ」

「私を?」


おっちゃんは私の手を引き、ビルの外に連れ出す。


「付き合って欲しんだ」


はぁ? 付き合う? いきなり何言ってんの?


「私、彼氏居ますから無理です」

「いや、ちょっとだけ時間くれないか? ご飯でも食べながら……どう?」


なんだ、そういうことか。紛らわしいこと言わないでよね! それより、ご飯? そのワードに弱い私……


「美味しい天ぷらを食べさせる店があるんだよ」


美味しい天ぷらか~いいなぁ~


「三ツ星のお店だよ」


み、三ツ星ですって? 


「行く!」


食い物につられ初対面同然のおっちゃんにホイホイ着いて行くことに、なんの違和感も感じないお気楽な私。自分で言うのもなんだが、警戒心ゼロだ。


タクシーが横付けされたのは、まるで高級料亭みたいな天ぷら屋さん。


「いらっしゃいませ。まぁ、轟(トドロキ)様じゃないですか。お越し下り、有難うございます」


おっちゃんって轟さんて言うんだ。てか、このお店の常連さんなの? もしや、おっちゃんもお金持ち?


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