この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
「銀……」
「橋倉君、アポの時間の指定は?」
「あ、はい、出来れば朝一でと……」
「そうか。じゃあ、すぐ出る。その会社の大まかな情報出しといてくれ。神埼君は法人用の資料とパンフレット用意して……」
「待って……」
「早くしろ。遅くなってクライアントの機嫌を損ねたら、せっかくの契約が飛ぶぞ」
「聞こえませんでした? 私は沢村部長とは行きません」
銀がようやく私の顔を見た。
「黙れ! 仕事に私情を持ち込むな。お前は選り好み出来る立場か? 相手は俺に来いと言ってきてるんだ」
「ぐぐっ……」
それ以上、言い返せなかった。
橋倉さんは「いい機会だからゆっくり話していらっしゃい」なんて言ってたけど、何を話せばいいの? 銀の本当の気持ちを知ったら、また辛くなるだけなのに……もう十分だ。
用意を済ませ、銀と地下の駐車場に向かう。密室のエレベーターでは、少し距離を取り離れて立った。
銀は何も言わず、点滅する数字を眺めている。
営業車の助手席に乗ると銀がやっと口を開いた。
「クライアントの役職は?」
「あ……」
この時、初めて気づいた。この電話をくれたってお客さん、私、知らない……顧客名簿を調べても、その社名は無かった。
なぜ? 私が営業を掛けてない人から、どうして電話があったんだろう。
橋倉さんのメモには"NIBカンパニー専務"とだけ書かれてあった。
「……専務さんです」
「分かった」
この短い会話が、車内での唯一の会話だった。