この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
社を出て10分。その会社は、意外と近い場所にあった。
真新しいオフィスビルの5階。エレベーターを降りるとすぐ『NIBカンパニー』のプレートが付いたドアが眼に入る。
受付の女性に銀がアポの約束を告げると、すぐに応接室に通された。
お茶を出してくれた制服を着た女性が部屋を出て行き、応接室は水を打ったように静まり返る。
気まずい空気が流れ、銀と並んで座ってるソファーから逃げ出したい気分だ。
手持ち無沙汰で出してもらったお茶を飲もうとした時、銀が小さな咳払いをしてボソリと言った。
「昨日、一緒に居た男は誰だ?」
「えっ?」
驚いて思わず湯のみを落としそうになる。
気付いてたの? 銀……
でも私は平静を装い「なんのこと?」と呟き横を向く。
「俺が気付いてないとでも思ったのか? あんな場所で、貧相な女が居れば一目で分かる」
ひ、貧相?
「何よ! どうせ、私は根っからの貧乏人ですよ。貧相な女で悪かったわね。
そうだよね……私みたいな女、あんな高級レストランに恥ずかしくて連れて行けないよね。
でも、怜香さんなら……彼女なら、自慢出来るくらい綺麗だし、銀も鼻が高かったでしょ?」
嫌味混じりにそう言うと湯のみを乱暴にテーブルの上に置いた。
「バカなこと言ってんじゃねぇよ。いつ俺がお前と一緒に居て恥ずかしいなんて言った?」
「言わなくても分かる!」
銀を睨みつけた眼が潤んでいるのが悔しい……泣くもんか。
「あのな……」
銀が何かを言おうとした時、部屋のドアが開き、専務さんが入ってきた。
私と銀は素早く立ち上がり、深く頭を下げて専務さんが眼の前に来るのを待つ。
「朝早くから来てもらって、申し訳ない」
……えっ?
私は頭を下げたまま眼を見開く。
嘘……でしょ?
その声は、聞き覚えのある声だった。