この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

「わぁ~ん! 割り箸落としちゃったじゃない!」


慌てて溝に手を突っ込もうとしたら、彼がソレを制止した。


「よせ! 拾うな! その割り箸は、既に死んでいる……」

「何それ? アンタ、ケンシローかよ? それに、割り箸だよ? 死ぬ前に生きてないっしょ?」


半泣きで怒鳴る私の腕をムンズと掴み、ゆっくり首を振る彼。


「いいか? この溝の中の泥には、おびただしい数の大腸菌がウヨウヨしている。そこに落ちた割り箸は、もう割り箸に有らず。ただの黴菌にまみれた木片だ。

それでもお前は、ソレを拾うのか?」

「えっ……」


返す言葉が見当たらない。コイツ、頭が良すぎるバカか?


「で、お前、いくら持ってる?」

「はぁ?」

「俺の所持金は60円だ」

「あ……私は、給料日前だから……50円」


素直に答えてしまった。


「そうか、じゃあ、アレはなんだ?」


彼が指差した先を見ると……「コンビニじゃん」


「そう、今からお前は、あのコンビニに行って、110円で食い物を買って割り箸を2膳貰ってこい」

「意味分かんない! なんで私なのよ?」


全く理解不能!


「俺の方が10円多く出すんだ。当然だろ?」


バカバカしい……誰がそんなことするかってーの!


「ところで、ケンシローって、誰だ?」

「その前に、アンタこそ、誰よ?」



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