この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止


「まさか……」


少し距離があるからハッキリとは分からないけど、あの植木屋さん、轟のおっちゃんに似てる。でも、いくらなんでも、轟のおっちゃんがこんなとこに居るはずがない。


一度は否定したものの、気になって仕方ない。ガラスにへばり付き、目を凝らす。


すると私の頭の中で、良からぬ想像が渦巻きだした。


あのおっちゃんは、ホントに産業スパイなのかもしれない。ここが鳳来物産の社長の家だと知って、植木屋に化けて忍び込んだとしたら?


ほら、あんなにキョロキョロして、何かを探ってるみたいだ。怪しい。絶対、怪しい。


そう考え出すともう止められない。


「どうしよう……」


そうこうしてるとおっちゃんは植木の手入れを終え、脚立から降りると辺りに散らばった枝を片付けだす。


このまま見逃して大事件になったら後味が悪いし……いや、待てよ。ここで私が産業スパイを捕まえたら、間違いなくヒーローだ。そうしたら、社長や奥さんに感謝されて、銀との結婚も許してもらえるかも……だ。


ミーメ、どうする?


おっちゃんが脚立を抱えた。もう迷ってる時間は無い!


えぇぇーい! 行っちゃえぇぇー!


ガラス戸を力一杯開け、裸足で外に飛び出した。かけっこが苦手な私なのに、自分でもたまげるほど速く走ってる。


「ちょっと! 待ちなさーい!」


おっちゃんが私に気付き、立ち止まってポカンとこっちを見た次の瞬間、私はヒラリと宙を舞い華麗な飛び蹴りをお見舞いする。


その芸術的な鶴が舞う様な飛び蹴りは、見事におっちゃんの腰の辺りに炸裂!


「うぅぅ……っ」


腰を押さえ、うずくまるおっちゃん。私は芝生に倒れ込みながら、渾身の力でおっちゃんの足を掴む。


「久しぶりだね、おっちゃん」

「君は……み、美衣芽ちゃん?」



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