月に潜む恋情

この手に掴まってしまえば、簡単に彼のもとに行けるだろう。
でも、行ってしまったら……。


頭では躊躇していても、身体は勝手に動き出す。
クーラーの室外機の上に右足を乗せベランダの手すりに左足を乗せると、ゆっくりと手を伸ばす。


彼のしなやかで、でも燃えるように熱い手が、私の手を掴んで引っ張りあげた。


一瞬、蝶のように宙を舞うと隣のベランダに飛び降り、彼の胸にぶつかった。
そのままギュっと抱きしめられる。


「今夜は最高の夜をプレゼントしてやる……」


耳元で囁かれた言葉は、私の思考を停止させた。


そしてその夜、彼はただの隣人ではなくなった───



END・‥…☆

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