鍵穴
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 水曜日の残業を終えたマナは自宅前に着いた。バッグから鍵を取り出そうと漁る。が、ない。ポケットも探すが、ない。
 既に三十路を目前に控え、鍵をなくし「マナはね、理想が高いんだよ」という友達の忠告と嘲笑が折り混ぜになったことを思い出す。
 理想が高い?そうじゃない。事実、彼氏もいる。でも女好きで信用できなくなっている。だから慎重なの、そこをわかって欲しい。それに、二十代中盤で結婚して、既に離婚してる人もいる。それで子育ては一人、という生活は嫌だ。離婚した事実で、幼い子供の人格に影響が及ぶのは確実だ。それを親の都合だけで語られるものではない。子供は寂しい、だって、、、
「あの、どうしました?」突然掛けられた声にマナは驚き、今までの思考は消えた。そこには隣人がいた、名はミノル。
「鍵なくしちゃったみたいで」とマナは年甲斐もなく舌を出し、ひきつった笑みを見せた。

 マナは小さい時に両親が離婚。母親に育てられ、周囲の裕福な人達とは真逆な生活を送ってきた。クリスマスなどのイベント事の会話には、嘘をつき、はぐらかした。その時の経験が社会に出ての処世術に繋がった。そう、人はみな自分の話を肯定してもらいたく、褒めてもらいたいのだ。そこがわかってからは、精神的に強くなった。
 が、強くなっからと言っても、結婚はしたい。子供も欲しい。

 不動産屋が定休日ということもあり、連絡がつかず、一晩だけミノルの家に泊めてもらうことになった。陰気なイメージだったが、話しをしてみると陽気で明るく、人を楽しませるコツを知っている。マナは笑い、遠慮なく飲んだビールのせいか、気分も高揚していた。
 午前〇時を回り、ミノルが過去を語りだした。どうやら彼も母子家庭らしい。マナとの境遇が似ていて親近感が持てた。話に共感をし、涙腺が緩んだ。
 その場はしんみりとし、ミノルの涙腺にも雫が溜まっていた。マナは彼の右手に触れた。すかさずミノルの左手が上に被さる。
「キスしていい?」彼の一言はシンプルだった。そこには欲望というよりは、誠実、さが滲み出ていた。マナは首を縦に振り、互いの唇が一瞬触れ、離れ、「この欲望だらけの世の中で信じれるのはただ一つ」とミノルはマナの両肩を掴んだ。
「それは何?」
「愛」
 マナは目を瞑った。案の定、ミノルの手が胸を通過し、キスの連打を交わし、鍵穴を探り当てた。こじ開けて欲しくて。
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