ナツメ
ナツメ。
父が、母ではなく、雪菜さんを選んだ理由が、わたしにはよくわかります。
母は、いつも、母でしかなく。
女では、なかった。
娘であるわたしを理由に、美しくあることを放棄していた。
決定的に。
母の幸せは、父のそれとは、違っていた。
そうして、ナツメ。
わたしの幸せとも、また。
それなので、父と母が別れる時、わたしは父の幸せの方を選んだのです。
死ぬまで、男を捨てなかった父と、完璧だった雪菜さんとの生活を。
ああ、そうね、けれども、ナツメ。
本当に美しいことは、崩壊の中にあったのかもしれない。
それに気付くためには、ナツメ。
わたしはまだ、幼すぎたのです。