月宮天子―がっくうてんし―
海の手にする『光剣』から光が消え、ただの棒に戻る。

『月光玉』の色をした『月宮天子』海は、動かずに氷月の背中を見送っている。


その姿に業を煮やした朔夜は、錫杖を手に氷月のあとを追おうとした。


「待った! ちょっと待った! 奴らを大神島に帰せないかな? それで結界が万全になれば、奴らは出て来られない。麻酔銃とかで眠らせて、島に連れ戻すって方向で……」

「カイ、あなたは『月宮天子』様ではないのですか? どうして奴らを」

「その千年前の『月宮天子』も、奴らを滅ぼさなかった。外界とは隔離して、生き残るように計らったんだ。だから……」

「だから、尚のこと、滅ぼしておけばよかったのだ!」


烈火のごとく怒る朔夜に、横から愛子がポツリと言った。


「カイには無理だよ。だって……血が繋がってるかもしれないのに」

「なっ!」

「カイは言ってた。父親が獣人族かもってことより、妹がいるってわかったことのほうが嬉しいって。カイなら……獣人族でも家族って思っちゃう人だよ」


愛子の言葉は、朔夜の胸を打ったようだった。


< 167 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop