月宮天子―がっくうてんし―
愛子は高校に入ってすぐのことを思い出していた。

家まで電話が掛かってきて……「中学校の卒業アルバムを見させてもらって、可愛いなぁって」都内の私立男子高の生徒だった。

最初は何人かで会って、しだいにふたりきりでもデートするようになる。「俺って空手の黒帯なんだぜ」と言うのが彼の自慢だった。

そんなある日、デートの最中に愛子がバイクに当たったことで暴走族に囲まれてしまう。するとその男は、「ちょっとした知り合いで、僕とは関係ありませんっ!」そう言って脱兎の如く逃げ出したのだ。

幸い愛子は無事だったが……翌日、男の言い訳が見苦しかった。

『俺って黒帯だろ? 有段者だからさ……怪我させたらヤバイから』

愛子がその腰抜けと二度と会わなかったのは言うまでもない。


所詮、男はそんなものだ。いざとなれば自分が可愛い。父が妻子のために番犬代わりの男を寄越したとしても、いざとなれば逃げ出すに決まっている。

そう――思っていた。


悲鳴すら上げてないのに、この人は来てくれた。愛子にはそれが不思議で、感動もしていた。言葉は素直じゃないけど、根は単純なのだ。


「どうしよう……どうしたらいいの?」


携帯電話を取り出し、通報することすら考え付かない。

そうこうしている間にも、化け物は両手を伸ばし海に襲い掛かる。

海はその攻撃を両手で受けた。でも、どう見てもパワーが桁違いだ。一気に押し倒されそうになり、慌てて海は身を翻した。

どうやら、化け物は海を捕まえたいらしい。

その目的は多分……捕食。


< 20 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop